江戸川乱歩 著 新潮文庫 2017.1.3.読了 ★★★★★
江戸川乱歩の初期短編の傑作集。明智小五郎が初登場した「D坂の殺人事件」や「屋根裏の散歩者」「人間椅子」といった名だたる作品がそろっていて、今まで読もうと思っていた傑作をまとめて読むことができた。
うん。エキサイティングな人生を送れるかどうかは、どれだけ精神が自由であるかにかかっているんだなあ、と思う。天井裏や椅子の中に、これほどの冒険と官能をみつけることができるとは。乱歩の目には、世界はどんなふうに映っていたんだろう。
戦争によって手足と音と言葉を失った復員兵とその妻との陰惨な快楽の日々。「芋虫」。最後に残された視覚までをも奪われた夫の心の中には、どれだけ濃密な闇の世界が広がっていたのか。柱に書きつけられた「ユルス」という文字が、人間の計り知れなさを示しているようで、不思議な読後感をもたらした。