青柳 碧人 著 講談社文庫 2016/10月読了 ★★★★
情操教育を重視し、理数系科目を軽視する方向に国家の教育方針が定められてしまった日本が舞台。これに憤った天才数学者が数学テロ組織「黒い三角定規」を組織し、国民を人質に数学の地位向上を要求。対抗する警察の頼みの綱は数学大好き女子中学生!
なかなか楽しい。ヒロインの浜村渚ちゃんはほんわかしててかわいいし、テロ組織の数学オタクたちは一癖も二癖もある変人ばかり。冗談みたいななりゆきなのに、一歩間違えば命を奪われる、ぎりぎりの戦いが繰り広げられる。テーマは数学、それも計算や数字の羅列よりは原理的、哲学的な話を面白くわかりやすく説明してくれるのだ。
この話の設定、デフォルメされているけれど、実際に教育に携わっている人たちにとってはかなり身につまされる話なんだろうと思う。戦後の教育、特に公立校の教育の歴史っていうのは、かなり頭が痛いものがある。何年か前、ゆとり世代の大学生が文句を言っていたのを聞いた。自分たちが望んだわけでもないのに勝手に「ゆとり教育」をほどこされ、あとからやれ失敗だ、「ゆとり世代」だと言われるのは腹が立つ、と。そりゃそうだろうな。
そしてゆとり世代だろうがなかろうが、賢い子は賢いのだ。義務教育から数学が姿を消してしまった世界にも浜村渚ちゃんのような天才数学少女がいるように。