桜庭一樹 著 角川文庫 2017.1.3.読了 ★★★★
ゴシックシリーズ2冊目。
父親によって学園の外に出ることを禁じられているヴィクトリカは、いつも図書館塔の屋上の植物園で本を読んで過ごしている。そして久城一弥は、塔の壁一面に配置されたの書棚をつなぐ迷路のような階段を延々と登って毎日彼女に会いに行く。そんな日常を、彼らは過ごしていた。
ある日ヴィクトリカは禁を犯して学園を抜け出し、母親の故郷である、山間の閉ざされた小さな村へを訪れる。20年前に起こった殺人事件で犯人とされた母親の無実を証明するために。心配して着の身着のままでついてきた一弥とヴィクトリカは殺人の現場である村長の館に滞在し、村では中世から受け継がれた夏至祭が執り行われる。
この村の人々の正体は伝説の灰色狼である、と周囲の村では噂され、畏れられている。実際のところは、彼らは古代から中世にかけて東欧で繁栄し、15世紀に忽然と姿を消した伝説の民族セイルーン人の子孫であった。小柄で非力ながら優れた頭脳をもって外敵を退けていたというセイルーン人は、ヴィクトリカの姿に重なる。彼女にそっくりであったという、母からその血を濃く受けついでいるようだ。
閉ざされた村に住み、外の世界に興味を持つことを禁じられている村の人々の瞳からは、光が失われている。そんな中、夏至祭で新たな殺人事件が起こり、解決にあたったヴィクトリカはさらに20年前の殺人事件の真相も明らかにする。母の汚名を晴らしたヴィクトリアは学園に戻るが、村の人々は果たしてこの先どうなっていくのか。非常に優秀な民族の子孫である彼らは、これからもまた、外界から顔を背けてひっそりと生きていくのか。それとも再び世界の歴史に登場することになるのか。
この先の物語にこの村がまた関わってくるのかどうか、気になるところ。
グーグルで「セイルーン人」を検索してみたけれど、やはりこの民族は作者の創作であるようだ。