桜庭一樹 著 角川文庫 2017.1.1.読了 ★★★★
時は1924年。ヨーロッパの小国、ソヴュール王国に東洋の島国から留学してきた15歳の少年、久城一弥。そして高い塔に作られた図書館の最上階にこもる天才的な頭脳を持つ美少女ヴィクトリカ。この二人が協力して数々の難事件を解決していく。。。
産業革命を経て、急激に近代科学が発達している時代。一方で呪術や魔術といったものも、国の上層部から消えたわけではなかった。この巻では「幽霊船」に迷い込んだ二人が、第一次世界大戦前夜に、国の中枢を担う人々が行った大規模で忌まわしい占術の犠牲になった人間による復讐劇に巻き込まれる。
ヴィクトリカの出生の秘密やその母親のことなど、この巻ではまだわかっていない事が多い。物語が進むごとに架空の王国ソヴュールの全貌が明らかになり、「もう一つのヨーロッパ」の歴史が描かれるらしい。年少者、もしくはミステリー初心者向けに書かれているけれども、謎解きは本格的でスリリングだ。
この本のタイトルGOSICKとはどういう意味なんだろうか。最初はゴシック様式やゴシック小説のGOTHICかと思ったのだけれど、綴りが違う。GO SICK、病に向かう、ということだろうか。時代を考えるとそれもありかもしれない。第一次世界大戦後の小康状態にあったヨーロッパはこの後世界恐慌を経験し、そして再び世界中を巻き込む戦争へと突き進む運命にある。
日本人であり、帝国軍人の三男である久城一弥とソヴュール王国の貴族の娘であるヴィクトリカには辛い未来が待っているのかもしれない。あるいは「もう一つのヨーロッパ」では別の歴史が紡がれていくのだろうか。