多崎 礼 著 中公文庫 2016.10.19.読了 ★★★★★
冬至の夜に語り継がれる物語という名の悪夢。残酷で切なく、美しく、心を捉えて離さない。
取り返しのつかない過ちと罪、絶望に生きる人の瞳になお輝く意志の光。その人の記憶は語り部によって語り継がれ、歴史となる。
なんというか、読後すっかり動揺してしまった。著者はあとがきで、「すっきり爽やかな勧善懲悪も書けません。登場人物の誰もが『末永く幸せに暮らしました』という大団円も書けません」と言っているけれど、私は心が弱いので、大団円でないとダメージを受けてしまう。それでも、何度も何度も読み返してしまうのだ。無駄のない構成。二人の語り部が交互に語る物語は、それぞれ全く関係の無いように始まりながら、夜が深まるにつれ、絡み合い、徐々に核心へと向かう。そして最後の物語のタイトルは、「すべてのことには意味がある」。さらに最後の最後、文庫本書下ろしの短編で、ずっと気にかかっていた謎が解ける。
本当に魅力的な小説だ。同じ著者の他の小説も読んでみたいけれど、大団円は書かないって宣言してるからなあ。。