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読書メモ

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若奥様、ときどき魔法使い。

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若奥様、ときどき魔法使い。

白川紺子 著 集英社コバルト文庫 2016.9.28.読了 ★★★

テレビの2時間ドラマは怖くて見られない。ミステリー小説は結末を確認してから読み始める。40年以上前、帰宅が遅くなり、当時小学生だった息子に寂しい思いをさせてしまった事を思い出し、胸が痛んで眠れなくなることがある。その息子は現在立派に成人しており、そんな出来事など全く覚えていないにもかかわらず。

高齢者のグループカウンセリングで、そんな事を話してくれたおばあさんがいた、という話をカウンセラーの人から聞いたことがある。その人は、どうしておばあさんがそんな気持ちになるのか、わかりかねているようだったけれど、私はなんとなく理解できる気がした。自分自身にも思い当たることがあったからだ。

8年前、夫が急に倒れて死んでしまった。全く突然のことだった。その時から、少しずつ、少しずつ私から現実が遠ざかっていった。はじめは努力していた。就職して、新しい環境にも必死で慣れようとした。職場の同僚とも仲良くなって、飲みに行ったりもした。けれども、いくらあがいても、周囲の世界に対する自分の関心が、薄れていくのを止めることができなかった。

そんな頃、ふとしたきっかけで少女小説を読むようになった。はじめは何だこれ???という感じだった。登場人物がたいてい王族か貴族で、舞台はたいてい異世界の王国(中世ヨーロッパっぽいのが多い)で、騎士道精神、剣と魔法、ドラマチックな展開、でも予定調和(最近は傾向が変わってきたみたいだけど)。しかし全く今の自分と接点がないのが良かったんだろう。あっという間にはまってしまった。気が付いたら机の上には少女小説の山がいくつも出来ていて、地震が来ると倒れた。

それほどのめり込んだのは、きっと何らかの実感がほしかったんだろう。現実世界で失ってしまったもの。期待とか、興奮とか、充足感。そんなものをバーチャルな世界で満たそうとしていた。まあ、ありがちだけど。ただ、そのうち、私の心の比重の大半が、非現実の世界に置かれるようになってしまうと、小説の中の出来事が、私の感情を脅かすようになってしまった。

予定調和を承知していながら、主人公が辛い目にあったりすると、私自身がひどく落ち込んでしまう。最後まで読めば明るい結末が待っているのが分かっていても、そこまで読んでいる間がしんどい。うっかりアンハッピーエンドの小説を読んでしまったりすると、目も当てられない。馬鹿じゃないか、と思う。これじゃまともな読書なんかできない。それでも餓えたように、少女小説を貪り読むのだ。不幸や不安や絶望を、少女たちが明るい希望に塗り替える物語に酔いたいから。

今や仕事も辞めてしまった。私の生活はバーチャルを中心にまわっている。異常だと思う、自分でも。でも、それで構わない、とも思う。どんな人生だって、本人が満足していれば、それで良いのだ。

「若奥様、ときどき魔法使い」。物語の進行につられて感情が不安定になる私としては、この小説は、非常に安心して読めた。なんというか、ファンタジーである。いろいろ事件は起こるけれども、登場人物が全員まったりしていて緊張感がない。おおむねみんな幸せなのである。そして物語には適度にめりはりと意外性があり、読後感が良い。疲れた時になんとなく読むのに最適な本だ。そして読み終わった後、ああ面白かった、次はもう少しエキサイティングな本を読もうかな、と思うのだ。
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