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黒死館殺人事件

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黒死館殺人事件

小栗虫太郎 著 青空文庫(Kindle) 2016.9.2読了 ★★★★★

衒学趣味、というのは学識や知識をひけらかす趣味のことをいうのだけれど、日本のミステリーには、衒学趣味小説というジャンルが存在している(!)。昭和9年に書かれた「黒死館殺人事件」はその代表的な作品、というか、「黒死館殺人事件」というとんでもない作品がが登場したせいで、こんなけったいなジャンルが生まれてしまったようだ。まあ、海外にもヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」とか、同様な雰囲気を持った作品があって、「黒死館殺人事件」の元ネタになっているみたいだけれど。今度読んでみよう。

とにかくあらゆる方面からの引用、引用のオンパレード。薬学、物理学、犯罪学、心理学、天文学、歴史、宗教、民俗、文学その他。「○○についてはご存知ですよね」というセリフが探偵と容疑者たちの両方から度々聞かれ、専門的な知識をあたりまえの下敷きにして両者の間で熾烈な心理戦が延々と交わされる。。例えばいきなり英・独・仏の韻文(ソネットとか)を引いて探偵法水麟太郎が相手に話題を振ると、相手がその続きを引用して応戦する。探偵は相手の発音の強勢の不自然な点を分析し、その心の秘密に分け入っていく・・とか。つまり、超オタクたちによる仁義無き戦いですね。

この戦い、広範な知識と豊富な経験を持つ探偵法水が相手を翻弄して捜査を有利に導き、様々な謎を解いていくのだけれど、ようやく解決に近づき、光が見えてくる度に、それを全否定する事件が起き、ひっくり返される。ファウスト博士に例えられる犯人は、人間世界ではありえない現象を起こして次々と犯行を重ね、それを追う法水も、人としての限界を超えた想像力を駆使して隠された真実を明らかにしていく・・・

と、筋を追っていけばかなりスリリングな内容のはずなんだけれど、あまりにもいろんなところで話が横道に入りすぎて、途中で頭がこんぐらかってしまう。さらに犯人のトリックも超ややこしく、説明されても理解しきれないものもあるので、もはや謎解きへの興味よりも、この知の迷宮のような世界にひたることが、読書の目的になってしまう。

それが作者の思惑なのはわかるけれど、それにしてももう少し読みやすい文章でも良いじゃないかとは思った。わざと晦渋な言い回しをして相手をいらいらさせる法水の性格は、そのまま作家小栗虫太郎の性格なのかもしれないけれど。

とにかくそういう癖のある文章と難解な語彙に慣れてくれば、黒死館という、時代も国も言語も宗教もすべてについてなんでもありの、しかし特異な美と重厚な雰囲気を持ったラビリンスを楽しむ余裕が出てくる。そうしたら、あちらこちらの扉を自由にあけて散策だ。Kindleで読んでいるとつい、ところどころで立ち止まり、気になるところにハイライトをしたり、単語や書名を辞書やWikiで調べたりして寄り道ばかりしてしまう。当然遅々として読み進まない。それでもとうとう最後の謎までたどりつくと、突然「キッス」を受けて面喰い、えっと思ったら物語の終幕となっておりましたとさ。
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