坂口安吾 著 角川文庫 2016.10.10.読了 ★★★★
このシリーズ、もともと小説新潮に連載されていたもので、著者の死後に全集に入れられたり、単行本になったりしていたのだけれども、一部未収録のものがあったりして、通しで読める本はなかったそうだ。角川文庫にしても、初めに全体の3分の1を「明治開化安吾捕物帖」にまとめていて、それに漏れたものがこの続編に収録され、ようやく全編そろったわけだ。
なぜか低評価だったこの「安吾捕物帖」、最初に絶賛したのは花田清輝で、「そこには(中略)モラリストらしい哲学や残酷なユーモアがあったばかりではなく、まったく予期しなかった、転形期の日本のすさまじいすがたがあった」(角川文庫「明治開化安吾捕物帖」あとがきより)といっている。実際「明治開化安吾捕物帖」「続 明治開化安吾捕物帖」には、激動する世の中に翻弄される、あらゆる階層の人々の悲劇と喜劇、欲と意地、悪意と無償の善意がからみあって万華鏡のような不思議な風景が展開している。だからこそ、時に達観し、時に辛辣、時にとぼけた勝海舟の「負け惜しみ」が際立つのだろう。毎回推理が失敗してもどこ吹く風、善良で単純な虎之助をからかいつつも慈愛深く諭す勝先生のまなざしは、闇夜を航海する船を導く灯台の光ように清く温かい。