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のぞきめ

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のぞきめ

三津田信三 著 角川ホラー文庫 2016.9.10.読了 ★★★★

今年の初めごろ、映画「残穢」(小野不由美原作のホラー)を見たときに、映画「のぞきめ」の予告編が上映されていた。映画は怖そうなのに、「のぞきめちゃん」というマスコットが制作されていて可笑しかった。きもかわいい、というか結構不気味で良かった。のぞきめちゃん。

映画の「のぞきめ」は見に行かなかったけれど、原作の三津田信三の小説はその後少しして読み始めた。「のぞきめ」ではなく、怪奇幻想小説家で素人探偵(?)の刀城言耶が登場するシリーズを、試しに読んでみたら、すっかりはまってしまった。1冊読み終えると次が読みたくてたまらなくなり、あっという間に全巻読んでしまった。

ホラーとミステリーの融合、というこのシリーズの趣向が、私のニーズに合ったんだろう。怪奇的なこの世ならぬ世界と本格的な推理を同時に楽しめるのが良い。戦後十年を過ぎたころ、という時代設定も好み。(そういえば中井英夫の「虚無への供物」も映画の「ゴジラ」第1作もこの頃が舞台だな)さらに三津田信三の軽い文体。これがおどろおどろしい内容とアンバランスで悪くない。この時代こんな言葉遣いするかよっていう箇所もあるけれど、気にしない。この軽さが、ほっとするというか、一種の息抜きになるのね。

小説「のぞきめ」。不思議な因縁で、ホラー小説家である「私」がたまたま蒐集した2つの怪異譚。一つは1990年代の終わりの別荘地を舞台とし、もう一つは(おそらく)1955年頃の山間の小村で起きた恐ろしい出来事。この2つが実は同じ場所、同じ「のぞきめ」という怪異であることに気づいた小説家は、まるで操られるようにこれを小説として発表する。読者に対し、「その人(読者)は自ら怪異を招いていると言える。その怪異に対する責任が、本人にはある。」と言い放ち、それを読むことによって何らかの障りがある可能性を警告しならがら・・・。

ノンフィクション風に小説家の日常の出来事を描きながらじわじわと怪異の世界へと風景が変わっていくさまが恐ろしい。そこにあんな警告をされた日には本当に背筋が冷える。うまいなあ、と思った。小野不由美の「残穢」もドキュメンタリータッチだけれど、「のぞきめ」はなんというか、ベタなのね。それが良い。作家のサービス精神が感じられ、こちらもそれに乗って楽しもう、という気になってしまう。前述の「軽い文体」もこういう傾向の作品だからしっくりくるのだと思う。

「のぞきめ」を読み終わって、三津田信三のそれ以前の作品、特に「厭魅の如き憑くもの」と「水魑の如き沈むもの」が思い浮かんだ。「厭魅」は憑き物に関する話であることが共通し、オチのからくりも似た雰囲気がある。舞台となった村について「のぞきめ」でも言及されているし、作者もわざとやってるんだろう。「水魑」の方は、結末部分と読後感が似ている。こちらも作者が意識してそうしたのかな。同じ名前の「昭一」という少年が登場するし。

ところで意外にも、「のぞきめ」は読後感が悪くない。ああ、そうだったのか、と思うとなんともしみじみとした気分になる。そしてなぜ映画のマスコットとして「のぞきめちゃん」が生まれたのか、理由が分かった気になった。
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