糸森環 著 富士見L文庫 2016.12.22.読了 ★★★
とにかくタイトルに「あやかし」が付くラノベが最近多い。誰がタイトルを決めるのか知らないけれど、なんでもかんでも流行りに乗っかるのって、どうかと思う。読者だって、またかと思うでしょう。
でも、糸森環さんの新作なので、書店に並んだとたんに買った。こういう和風まったりホラーものって彼女の作品では珍しい。日向夏さんの「あやかし」ものは、実はかなりダークで残酷な話だったけれど、こちらの「あやかし」は、わりかしまったりとしたご町内ファンタジーだ。
市町村合併の危機にある小さな町で、妖怪と人間が協力して町おこしをしていく、というような話の流れになるみたいだ。この本ではまだそこまでいっていないけれど。主人公は人間で、いきなり妖怪たちの町長をおおせつかって、人間と妖怪=あやかしとの調停役をすることになる。異種族間の交流と共生の物語。
糸森さんの多くの作品で、コミュニケーションは重要なモチーフとなっていて、誤解や確執を含んだかなりスリリングな展開となることが多い。主人公は傷つきぼろぼろになり、それでも歯を食いしばって立ち上がる。今回の「あやかし」では、ハードな展開にはならないけれど、人と妖怪のあり方は根本からが異なるため、相互理解には程遠い。一歩間違えば深刻な対立になりかねない危うい状況のなか、主人公の町長がどうにかこうにかトラブルを解決していく。自分の置かれた状況に困惑しつつも、人間に対する不信をあらわにする妖怪たちに対し、素直に真っ向から気持ちをぶつける町長に好感が持てる。
それにしてもこの本、一行の文字数が極端に少ない。いかにもラノベだ。糸森氏の、独特の癖のある言葉遣いも鳴りを潜めていて、寂しい。作品によって文体を変えているのはいつものことだけれど、これはいくらなんでもやりすぎでは。